私が切なかったのは

ああ、つらかった。苦しい夜でした。


逝ってしまった彼の別人のように痩せこけた姿も悲しかったのですが、残されたガタイのいい彼が、ご遺族の前で気丈に、完璧な「親友」として振る舞う姿が痛々しくて。


だけど、はやめに着いた友人によると、納棺の時にとうとうこらえきれなかったのか、突如、唸るようにうおおおーーー…と泣き出したのだそうです。仁王立ちで、赤鬼みたいに顔を真っ赤にして。


でも、少し遅れて私が伺った時には、目は真っ赤だったものの、「来てくれてありがとう」とやさしい笑顔でした。そして「女子歓迎」と囁いて、ご遺族に紹介してくれました。


ふと見ると、まわりはイカニモ系の兄貴たちばかり。でも、思ってたより友達少ないのね…と思っていたら、野郎ばかりが押しかけないように、彼がいろんな人にこまめに連絡をとって人数調整をしていたのでした。故人のセクシュアリティが、遠く離れて暮らしていたご遺族に気づかれぬように。


私たちはみな、なにも説明されなくても事情がすぐにわかって、危なげなことは一切しゃべらず、オネエ言葉も一切なく、静かに演技をしていました。私は故人の昔のカノジョみたいな、あるいは憧れの先輩を失ってショックみたいな感じに。そして誰よりも愕然として、ただただ泣き崩れていたいであろう故人の恋人は、彼を守りたいがゆえに、あくまでも親友の顔をしていて。


火葬は都内ですませるけれども、葬儀は地元で行なうとのことでした。誰よりも故人のことを愛してきたのに、明日にはなにもかもが取り上げられてしまうのだろうと思うと、気丈に立ち働く大きな背中がとても心配でした。