なにげにリアル『おひとりさまの老後』を目にしたよーな……

ひとり暮らしの元・上司(女性)の家に、お見舞いに行ってきました。彼女は私の母に近い年代で、もともと体調を崩して早期リタイアしていたのですが、先日、天袋からモノを取ろうとして踏み台から落っこち、腰を強打。救急車で運ばれ、骨折こそしていなかったものの、ひどい打ち身でほぼ寝たきりの自宅療養中と聞いたからです。


ちょうど前夜に、さるもたん&モル美たんと一緒に、天然素材と無添加調味料だけを使った和風カレーづくりに挑戦していたので、それを2食分、パックに詰めて持っていきました。あとは重い野菜とか水を買って行くといいだろうなと思って電話をしてみたところ、「恥ずかしいんだけどトイレットペーパーを買ってきてくれない?」というご要望。


背伸びをしないと届かない棚の上にストックが置いてあって、腰が伸びずにどうにも取れないというのです。ヒー、これまでどうしていたというの?!(とてもツッコめない……)


彼女がどうして一人暮らしなのかというと、独身キャリアウーマンだったからなのですが、いやはや、最近、上野千鶴子氏の『おひとりさまの老後』を読んだばかりだったので、なんかこー、考えさせられるものがありました。



この本は、ちゃんと考えればおひとりさまの老後は怖くない!という内容で、月100万円の個人年金で悠々自適のおばあさまの話など正直うらやま……いやいや興味深かったのですがw、たとえお金があっても「孤独」では、おひとりさまの老後はたいへんと書かれていました。その点、ちょっとこの先が心配な元・上司です。


なにしろ、ひどくクセのある性格なのです。今と違って、女性が働き続けるのがたいへんな時代のキャリアウーマン。仕事はできるし、ポジションも高かったのですが、男性社会のなかで苦労したんでしょうねぇ。いわゆる「鉄の女」で、むちゃくちゃ厳しいし、よく言えば孤高、悪く言えば人に気を遣わせるタイプでした。しかも、どうも年々疑り深く、気難しく、ヒステリックになっていったらしいのです。


彼女の下につくと、カラダを壊すかココロを壊すと有名な人でした。バイトさんや派遣さんは続かないし、時には社員でさえも辞めてしまう。でも、実績があるし、偉くなってるから誰も逆らえない。そんな上司に、なんと新入社員の私がお世話になることになってしまったのです! しかも誰もそんな上司だとは教えてくれずに!!!(ヒドいwww


最初は、そのバリキャリ女性上司のことが、かっこよく見えました。おしゃれだったし、クライアントにもおもねることなくバシッと意見を言う。愛想笑いはしない。すべて仕事の出来で納得させる。かっこいいですよね。でも、部下に対しても厳しいったらもう……(涙。


なにしろ、「甘えてんじゃないわよ」と「そんなこと自分で考えなさいよ」が口癖で、2度目の質問には絶対に答えてくれません。「前に教えた」からです。


褒められたことはめったにありません。「言われたこともできないのはバカ」だし、「言われたことしかできないヤツは使えない」だし、つまり何の指示もなくても状況を読んで、次にやるべきことを察して、きちんと成果を出さなきゃいけないというわけで。


そんなことができるわけもない新入社員の私は、緊張の中で右往左往し、数々の失敗をして、その上司に「気が利かないわね」「バカじゃないの?」「ほんとに大学出てんの?」と怒鳴られまくっていました。書類を投げ返されたりとか、床にバサッとはらい落とされたりとか、冷たい目で睨まれたり、質問を無視されたり、これって安いテレビドラマ?wみたいなことはしょっちゅうでした。さすがのくま公もその頃はゲッソリ痩せて、朝になると気分が悪く、不機嫌そうな上司の顔を見るとプレッシャーで胸が押し潰されそうでした。


だけど辞めなかったのは、親の猛反対を押し切ってはじめた仕事だったからでした。卒業したら郷里に帰る約束で東京の大学に進学したので、そのまま東京で就職したのは「約束破り」。当然、仕送りはストップ。辞めたら生活が立ち行かないし、親に頼れば「帰って来い!」と言われるに決まっています。というわけで半泣きになりつつ、ほとんど意地だけで会社に通っていました。


しかしまぁ、石の上にも3年と申します。しばらくすると上司の怒りの“ツボ”が見えはじめ、なるほど彼女が言っていることもビジネスでは当然のことだと思えるようになってきました。


だって、クライアントに「どーしたらいいですか?」「私、なにをしたらいいでしょう?」とか聞いてたらアホかと思われますよねぇ。言葉になる前のもやもやした要望(隠されたニーズってやつですね)を察して、魅力的な提案やプレゼンができなきゃ、数ある競合を抑えて選ばれることはありません。


そう感じるようになってくると、乱暴で不親切な上司の言葉も、脳内で翻訳してそれなりに理解できるようになり、そのうち冗談まで言えるようになってきました。私がわざと生意気なことを言うと、彼女は「生意気ねぇ、誰に似たのかしら?」と口を尖らせます。「○○さん(上司の名前)に決まってますよ」と言い返すと、妙に嬉しそうにします。つまり、そういう人。プライドが高くて、ナメられたくなくて、ピリピリと誰も寄せつけようとしないけれども、ほんとはうまくかまってほしい、かわいらしい女性なのです。


その後も人権侵害だよ!ってくらいひどい目にはあい続けてはいましたが、その代わりに、私にとって良いこともありました。「噂のヒステリックババア」(失礼ですねぇ…)とうまくやってる新入社員として、社内外で名を馳せたのですw 


彼女に恐れをなしている幹部や取引先の方々に、「恩にきるから、雪ぐまさんも同席して」と懇願され、新人なのに重要な会食やら会議やらに参加させてもらえるようになりました。まぁ、そこでも人前で書類を破り捨てられたりとか(!)、お茶がまずいとひっくり返されたりとか(!!)、嫁姑戦争か?!ってくらいさんざんな目にあいましたけれども、その頃に私の苦心惨憺ぶりを見ていた人たちが今、仕事で私を助けてくれ、気にかけて引き立ててくれているような気がします。


だからね、厳しい上司やパワハラに悩んでいる人もいるかと思いますけど、笑顔で、自分なりにきちんと仕事をしていれば、見ていてくれる人はいるんだと思いますよ。あと、ひどいことを言われても深刻にとらえないことねw 強風をまともに受けてポキッと折れちゃわないように、自分が柳にでもなったつもりでハイハイハイ〜としなやかに……って、話が横道にそれましたねw えーと。


彼女のやり方も生き方も好きではないので、尊敬はしていません。だけど私を強くし、成長させてくれた人ではある。だから、困っているならカレーでも持っていきますよという気分になったのでしょう。仕事を離れて見る元・上司は、ただの痩せた“おばさん”で、すこし気の毒なほど孤独に見える。だからといって私がどうにかしてあげられるほど、気を許せはしないのですけれども。……ひどいかな、私?


その後、彼女から届いたお礼のメールには、こう書かれていました。
「今日はわざわざ来てくださって、本当にありがとう。あいかわらず能天気そうなあなたの顔を見たら元気が出たわ。カレーはなかなかスパイシー。欲を言えば旨味が足りない。市販の麺つゆを入れるといいわよ」。


市販の麺つゆなんか入れたら、さるもとモル美の苦労が台無しなんですけどww 私は苦笑しつつ、すぐにお返事を打ちました。「今度、試してみます。また近々、ずうずうしくお邪魔しますね」。


一言多くてなにかと面倒くさい、元・上司。やれやれと思うけど、私もどうも最近、ちょっと頼りない風情の後輩たちに「いつまでも甘えてちゃだめよ」「自分で考えなきゃだめよ」って、彼女と同じこと言ってる気がするのw やだなぁ、アドバイスはともかく、ヒステリーだけは似ないようにしないとwww


あ、そうだ。私が『おひとりさまの老後』を買ったのは、はるか先の自分の老後が心配だからなのではなく、親の老後が心配だったりするから。


私、実家から遠く離れて住んでますからねぇ、いつか親を「おひとりさま」にしてしまうかもしれないって思ったんです。両親揃っているうちはいいですが、もしどちらかが先に逝ったら、残ったほうは「おひとりさま」ですから。


そしたら私、どうしたらいいのかな?って、ちょっと思って。そうね、どちらかというと今から老後という人よりも、私のような娘世代が読んだほうが参考になる本でしょうね。ぼちぼち中古市場にも出てくるでしょうし、読みやすい内容ですから興味のある方はぜひ。

【解説】『おひとりさまの老後』について


あ、でも男性にはおすすめできないw 上野教授、男性には辛口ですからねぇ、頭にくると思いますよw