きれいな目をした男の子

とてもきれいな目をした男の子に会いました。漆黒に光る、静かな水面のような瞳。まっすぐな首をしゃんと立てていて、とても素直に美しく笑う。話しながら私はなんとなく見とれていて、そのうち、ああ、この人、野生の鹿のようなんだと思いました。


私はわりと、いつも笑顔の印象があると人に言われるのですが、きれいに笑えているかというとまったく自信がありません。愛想笑いだったり、困った笑顔だったり、ときには意地悪な笑顔だったりしてると思う。


鹿のような彼は大学生で、その年頃の男の子って、いろんなことにまだちょっといきがっちゃったりするところがあるんじゃないかなって思うんですよ。素直に笑えなかったり、どことなく卑屈になっちゃったり、相手の出方をうかがったり、あるいは逆に自意識過剰であったり傲慢であったり、むやみに挑戦的であったり。


なのに彼はそういったことをまったく感じさせない表情で、とても羨ましかった。彼は世界中をこの目で見てみたいという強い欲求があって、せっせとバイトをして貯めたお金で一人旅を繰り返しているのだそうです。バックパッカーというとこれまたちょっとクセのある印象ですが、不思議なことにそういう臭みもないんですね。震災後のパキスタン復興のボランティアに参加した話や、インドのマザーテレサの家に滞在した話や、ユーラシア大陸を徒歩とバスで4カ月かけて横断した話とか、ラオスで山賊にホールドアップさせられて死ぬかと思った話など、自慢げでもなくとても無邪気に話すから引き込まれる。


なるほど、この人はいまここだけを見てなくて、時間も、景色も、はるか遠くを見つめているから、こんな目をしているんだなと思いました。なんだか胸が苦しくなりました。恋したとかじゃないですよ?w 目は心の窓。表情は心の鏡。取り繕ってもごまかせない。私はきっとこんなふうに歪みなく魅力的に話せていない。笑えていない。振る舞えていない。だって、この人みたいに心の中に果てなく広がる草原のような風景を持っていないんだもの。


彼の歳の頃、私はというと初めての失恋に気をとられて、忘れたくて忘れられない苦しさから逃れたい一心だけで、ただ享楽的に日々を過ごしていたように思います。自分の居所を見つけるのに必死で、世界のことなんて考えなかったな。まあ、今でも考えていませんが。


それがいけないとは思わないけど、スケールが大きく聡明な、そして自由な瞳が羨ましくなる。きっと見るからに魅力的だからでしょう、彼は正直、エリートコースを歩むような大学に在籍してるわけではないのですが、国際的なエリートが集う某機関に就職が決まって、この春からさっそく途上国で8カ月の研修だとかでマラリアの予防接種が痛かったと笑ってました。


下世話な私は、つい「彼女が寂しがらない?」と訊いてしまいましたw いや、恋人がいるかどうかはわからなかったんですけど、これはまわりの女の子が放っとくはずないだろうという彼だったのです。


そしたら彼には案の定、3年越しの恋人がいたわけですが、急にもぞもぞと照れくさそうになって「理解してくれてると思うんですけど……、やっぱ女の人ってそういうのダメですか?」と歳上のステキなお姉様(自分で言うなwww)にぜひご意見をうかがいたいという甘えた感じになりました。よしよし、かわいいぞっw


どうでしょうね、ダメじゃないけど苦しいでしょうね。放っとかれて不安で寂しくて、でもきっとまわりの誰よりも立派で魅力的でどうにもこうにも。私くらいになりますと「好きならどんな状況も仕方ない」と肝が座ってしまうのですがw、大学生くらいの女の子だと心揺れそうだなー。どうですか?


でも、メールとかまめに送ってあげれば平気よ、と言ったら、「メール書くの苦手で…」だって。あー、マメじゃないのはだめよ、やさしくないw 一長一短あるんですねぇ、誰にでも。