ロマンチックな難聴

もともと、すこし右の耳が聞こえにくかったんです。
半年ほど前から、時々、雑音が入るようになりました。


ラジオの雑音みたいなザザッザザッ…という音のこともあれば、レコードの針が落ちるみたいなジジッ…という音のこともあります。
そのうち、大きな音や人の笑い声が割れて聞こえるようになってきて、そう、スピーカーの音が割れるみたいなあんな感じ。ひどく耳障りだし、さすがになにかおかしいんじゃないかと思って、大学病院の耳鼻科を受診しました。


聴力検査を受けて、すぐに異常に気がつきました。
左耳では聞こえたはずの低音が、右耳ではまったく聞こえてきません。
音が鳴ってるはずだ、聞こえるはずだと焦って耳をすませばすますほど、不気味な黒い無音です。
次に飛行機の轟音のような音を聞かされました。
左耳では鼓膜が破れるかと思いましたが、右耳はまったく平気です。


「右側、鼓膜の奥の骨(あぶみ骨)が、まったく動いていませんね」


さらに精密な検査を受けた結果、そう言われました。低音難聴とか伝音性難聴というそうです。音に反応して動くはずの骨が動かないため、とくに低音が聞こえにくく、耳鳴りが起こるらしい。
進行性の疑いがあり、治すには手術しかないけれど、失敗すると失聴するおそれがあるため、補聴器でカバーしながら定期的に検査をして、我慢できるうちは我慢したほうがいいというようなことを遠回しに言われました。つまり「いまのところ処置なし」です。


「あ、そぉ」っていうのが、最初の感想でした。
妹が大病をしているせいですね。「なんだ、そんなことか」みたいなw
だって耳鳴りはうざったいけど、死ぬわけじゃなし。
失聴したら困るかもしれないけれど、死ぬわけじゃなし。
(深刻な耳の障害に悩んでいる方に失礼な発言になりかねないとわかっていますが、あくまでこれは私個人の感覚ということでお許しください)


その後、どうやら「耳硬化症」という病気に、症状が酷似していることがわかりました。日本人には1パーセント以下の珍しい病気で、中耳を囲む骨が骨化をはじめ、あぶみ骨の底が固着する病気です。


この病気、ベートーベンの難聴の原因と言われているらしいです。30歳前後で自覚的になることが多く、ベートーベンは28歳で不調が隠せなくなり、30代中盤ではかなり深刻になっています。「耳鳴りが、昼夜ごうごう鳴っている」と書き残しているように、もし進行するとかなり煩わしいようですが、最近の研究では、ベートーベンは人の声は聞こえなくても、ピアノやオーケストラの音は聞こえていたのではないかと言われています。だから、なんとか作曲もできたのだと。


難聴には感音性と伝音性があり、聞こえにくい音が違うそうです。耳硬化症の方のブログでも、「クラシックを聴くのが楽しみ」「オーケストラはよく聞こえる」というような記述があり、やはり楽器の音は聴こえやすいのだなとわかります。


それでね、またまたろくでもない発言なんですけど、私、それを知って、すごくロマンチックだなって思ったんです。もし病気が進行して、人の声が聞き取りにくくなっても、私は美しい音楽を聴くことができる。


そう思った時、唐突に頭の中にオペラ座みたいな華やかな劇場が浮かんで、恋人と並んでクラシックのコンサートを楽しんでいる姿が映りました。空気のなかにきらきらと音符が流れているのが見えるような美しい旋律。ふいに恋人の唇がなにかを囁き、それはもう聴こえないけれども意味はわかって私は微笑む……。そんな想像がなんだかとても幸せな気がして目頭がぎゅうっと熱くなり、それから自分のあまりの能天気さに笑ってしまいました。


まぁ、でも進行しないほうがいいですね。予防策はあまりないっぽいですけど、どうもストレスがよろしくないようなので仕事のことも妹のこともこれからはあまり考えないように……ってわけにはいかないってー!w 


ま、でもなんかね、あんまり悪くならないような気がするの。左耳は正常みたいですしね。根拠はないけど思い込みが大切。得意分野だわw


にしても、久々のハロコン参戦の時は、ちょっとまいりました。大音量の機械音なうえに、大歓声じゃないですか。ずっとではないんですけど、右から聞こえる音だけ、ゴワーーーーーーッてひどい雑音が混じってきちゃうの。でもね、うわ、ひどいなーと思って人差し指でピッと右耳を塞いだら、あら不思議、スッと雑音が消えましたw あ、なんだ、これでいいんだーと思って、右耳に指をつっこんだまま石川さんの勇姿を追いかけ回してみたりして。双眼鏡が持ちにくいのが難点ねw(とことん能天気でスミマセン。