神様からの教え!?

今日、タリーズで人を待っていたら、ふと、隣の席の母娘の会話が聞こえてきました。


娘さんは私と同い年くらい。
お母さんも、私の母と同い年くらい。
どちらかというと静かにお話されていたのですが、不思議と耳に入ってきたのです。


「お母さんね、男の人が昼間に家にいるっていうのが、なんだか信じられなかったの」


 ほら、あんたのおじいちゃんも、体が動くうちは忙しくしてたでしょう?
 どこかの会社の顧問をやったり、町内会の世話役を引き受けたり。


 だから、信じられなかったのね。
 お父さんが退職してから、ずーっとうちにいるのが。


 お昼もつくらなきゃならないし、夜も必ずいるから
 お友達と出かけても、夕方は帰ってご飯つくらなきゃいけないと思うし、
 なんだかどんどん気が重くなってきてね。


 それにお母さんからしたら、やっぱり信じられなかったのよね。
 お昼に男の人が、家でごろごろしていて平気というのが。
 ごろごろして、ポカーンと口を開けて、テレビばっかり見てるというのが。


 なんでこの人はこうなんだろうとか、
 どうしてこの人はここにいるんだろうとか、
 こんな人とお母さんは夫婦をしていたのかとか、
 そんなことまで考え始めちゃってね。


 そしたらなにをやっててもつらくて、料理も本当に苦痛で、
 そんなこと、これまでに思ったことないのよ?
 お母さん、料理は好きだと思ってきたからね。


 でもね、つらくてつらくてね、
 お父さんがそこにいるだけで腹が立ってきて、
 そうしたらお友達が軽い鬱かもしれないからって先生を紹介してくれてね。
 気が進まなかったけど、お母さん、カウンセリングを受けたのよ。


「そうなんだ」
ただ、うんうんと聞いてた娘さんが、ここですこし驚いたような声をあげました。


「そうなの。お父さんには内緒にしとかなきゃダメよ」
そう言って少し笑い、お母さんは話し続けます。


 カウンセラーの先生にとにかくつらいんですって1時間ほども話してね、
 そうしたら先生が、「○○さんは、どうして男の人が家でごろごろしてるのが信じられないんでしょう」って聞くのね。
 どうしてって、理由はないけど、とにかく信じられないのよね。信じられない。

 
 「ご飯も、どうして必ずつくらないといけないんでしょう」って。
 いや、だって、って思ったんだけど、そう言われてみると
 どうしてもやらなきゃってことではないのよね。
 どっちも思い込みなのよね、お母さんの。


 「奥様として真面目に取り組まれるのはすばらしいですけれど、時々はいいんじゃないですか。食事がなければないで、旦那さんは自分で何とかするんじゃないですか。もしかすると旦那さんも、奥さんがつくってくれる料理を『食べなくちゃいけない』と頑張ってるかもしれませんね」


 なんて、言われてね、食べなきゃいけないってそんな失礼な話あるかって思ったんだけど、考えてみたらそうなのよね。
 そうかもしれないのよね。


 なんとなくスッキリしたような、モヤモヤしたようなね、
 そんな気持ちで家に帰ったら、お父さんがまた昼寝しててね、
 ムッとしたんだけど、もうしょうがないわと思って、ご飯の準備を始めたのよね。


 そうしたらお父さんが起きてきて、台所をうろうろして、
 お皿を出したり、箸を並べたり、冷蔵庫からお漬物を出したりしてるのね。


 ああ、そういえばって思ってね。
 そういえばお父さん、退職して家にいるようになってから、
 こうやってお箸とか出してくれるようになったなって気がついてね。


 仕事をしてる時は、自分のお皿も下げなかったのにね。
 そうか、お父さんもいろいろ気をつかってるのかなあって、
 その時、お母さん、なんとなく気づいてね。


 それにお皿を出す様子を見てたら、なんかのったりとしてて
 あらまあ、この人も歳をとったなあって思ってね。


 そしたらなんだか、まあ、ごろごろしててもいいかって思ったのよね。
 好きにしたらいいわ、自分の人生なんだしって。


 こないだご飯つくらないで出かけたら、駅前まで行って食べたみたいね。
 かえって運動になるかもしれないわ(笑)。


「そうだよ。ほっときなよ」
と、ここで娘さんが笑ってあいづち。


「そうなのよね」
と、お母さんも笑って「とにかくスッと気が楽になったわ〜、ここのところ」と言いました。


このあたりで待ち人が来て、私は席を立ちましたが、
どこのおうちも一緒なんだなあとしみじみ考えていました。


実は、私は来週、母と二人で箱根旅行に行くのですが、
まさにこういう話を、母がまたしてきそうな気がして憂鬱だったからです。


うちの場合は、父は家で仕事をして、母が外で働いていたのですが、
やはり母が退職して、家で二人でいる時間が長くなったことで
なんだかこれまでにないストレスがたまっていたらしいのです。


そこで妹の病気が発覚して、母はもう必死で献身的になっているのに対し、
父はもちろん心痛めていますが、どちらかというとオロオロ気味。
自分は仕事に逃げ込んで、たいへんなことは母任せという感じがしないでもない。


だから母は、父よりも長女である私が頼りで、
会えばとにかく父の文句を言ってきます。
このお母さんが最初に言っていたみたいなことを。


でも、学んだわ。
私、この娘さんみたいに、うんうんって聞いてあげたらいいのね。
それをたぶん、母は求めているのね。


私はグズグズ言われるのが嫌いだから、
ともするとすぐ、「じゃあ、こうすれば?」とか
「そんなこと言ってたってしょうがないでしょ」とか、バシバシッとやりこめてしまう。


「あんたははっきりしてるねぇ…」と、ママはため息。
「普通は、あんたみたいに好き勝手できんよ」とか。


私だって好き勝手してるわけじゃない。
グズグズ言う人生にならないように、自分で努力してるのよっ(#`皿´)
とか、私は反発して喧嘩になるのがお決まり。


まあ、喧嘩したって母娘なので、いいのですが。


でも、箱根旅行の前にこのような会話が耳に届いたことは
なにかの暗示というか、神様の教えのような気がするわーw


うんうんって、聞いてあげたらいい。ママだから特別に。
そうしたらママも、いつかこのお母さんみたいに
なにかのきっかけで、納得の境地に辿りつけるのかもしれないものね。