真っ暗闇の世界

「目」以外で何かを見ようとしたことはありますか? 
今日は、ここ最近でいちばん鮮烈だった体験について書いてみようと思います。


それは、外苑前にある真っ暗闇のエンターテイメント、
『ダイアログ・イン・ザ・ダーク(Dialogue in the Dark)』
日常生活のさまざまなことを真っ暗な空間で体験するエンターテインメント形式のワークショップです。


1989年にドイツのアンドレアス・ハイネッケ博士によって発案され、ヨーロッパ、アメリカ、アジアなど世界各国の都市で600万人以上の人々が体験。
日本でもすでに6万5000人もの人々が、この「真っ暗闇の世界」を体験しているそうです。


たった一歩、足を踏み出すのもためらうような真っ暗闇の中、靴底に妙にはっきりと感じるでこぼこの道。
そして森の中に迷い込んだかのような木の香り。
目を見開いても、ひたすら闇。方向はおろか、自分のいる位置さえわからない。
手渡された白杖を握りしめて戸惑う私たちに、視覚障がいを持つ“暗闇のスペシャリスト”が手を差し伸べ、頼もしい声色で導いてくれます。


「私の声がするほうに歩いて来てください。そう、ゆっくり…、大丈夫ですよ」


白杖も持たずに、闇の中を縦横無尽に動き回る視覚障がい者の方々が、とてもかっこよく見えました。
そう、ここでは、健常者が障がい者に助けてもらわないとなにもできません。
でも、ただ視覚障がいの疑似体験や、福祉意識を深めるだけの場所ではないとも強く感じました。


闇に入ってすぐはとても怖いのですが(ほんとに何も見えないのです!)、すこし慣れてくると視覚以外の四感(聴覚・味覚・嗅覚・触覚)が研ぎ澄まされ、感覚が開いてくるのがわかりました。


実は日常生活において大脳皮質の3分の1もが視覚に使われており、そこが使われなくなることで他の感覚に脳が使われ始めるのだそうです。


ひんやりと冷たい空気が流れてきて湿度が変わっていくのがわかったり、食べ慣れた味のスナック菓子やコーヒーがいつも以上においしく感じられることに驚きます。


そして暗闇の中では、心も開かれるのでしょうか。
外見や肩書にとらわれることなく、見知らぬ人同士が声をかけ合って助け合い、自然と手を取り合っています。


いつしか闇は「居心地がいいもの」となり、私は妙に安らいでいる自分を感じていました。
自由に動き回ることもできず、なにもかも手探りなのに。


ツアーを終えて光のある世界に戻ってきた時には、「もう終わり?」と残念な気がしました。
「光が疲れる」と感じて、目に手をかざしていました。


闇をどのように感じるかは人それぞれで、ただ怖いだけの人もいるし、私のように深い安らぎを感じる人もいるし、フーン別に…みたいな人もいるそうです。


ただ、その時に集まった見知らぬ人同士でチームを組んで体験し、しかも完全暗黒というある種の「危機的状況」におかれるため、その人の「本質」「本性」が如実にあらわれてくるのだとか。


「結婚しようかな?とか、これからお付き合いしようかな?と思ってる人と来るといいですよ、いろいろわかるから(笑)」とスタッフさん。


いつも威張っている人がおどおどと彼女にすがりついていたり、彼女を置いてひとりだけ必死でアテンドさんにくっついていってしまったり、女の子も彼氏じゃない人にも平気で甘えてすがりついたり、やたら右往左往して団体行動を乱したり……。


逆に、日頃はおとなしい人が社会性を発揮して見知らぬ人たちの中でリーダーシップをとったり、「ここ、段差がありますよ」とこまめに気を配ってまわりの安全を確保していたり、安心する声色をしていたりと、意外な発見があるようです。


で、思わず別れたり、結婚しちゃったりするそうですw


私を連れていってくれた男子は、いつも微妙にKYで根暗な感じなのですがw、暗闇の中では楽しそうな明るい感じで、グループ内が女子ばかりということもあって床にはいつくばってモノを探すような時などは、率先して「僕がやります」と頑張っていたのは好感がもてました。


そして私はというと、社会性ゼロですねw
暗闇の中、いろんなゲームをしたりするのですが、それがまったく楽しめないのです。
みなさんけっこうはしゃいでいたのですが、私はむしろうざったく感じてしまう。


真っ暗なのをいいことに私はただ突っ立ってこっそりとゲームを放棄し、目の前に広がる闇をぼんやりと見ていました。
本当の闇は、目を開けていても閉じていても、同じ漆黒です。
私はそのうち目を開けていることさえ放棄し、目を閉じて自分の中へ中へとどんどん入り込んでいきました。


自分がどんどん小さくなって闇に溶けていくような、どんどん大きくなって闇そのものになっていくような不思議な感覚……。


そしてアテンドさんに「雪ぐまさん?」と声をかけられて、ハッと意識を戻す。
「あ、ごめんなさい…」、90分のツアー中、私は何度もぼんやりして謝っていました。
勝手にぼんやりしてきてしまうのです、ほんとに。


ツアーの最後のほうで真っ暗やみの中のカフェに行くのですが、そこにひとりで座って、ずーっとお茶を飲んでいたいなと思いました。
あ、一人じゃさみしいかな。
アテンドさんと、そうね、恋人か、親しい人がいてくれたらいいな。


同行男子は、「意外とおとなしかったっスねw」という感想を述べていました。
お仕事の知り合いなので、私がもっとテキパキしてると思ったようです。


「怖かったっスか?」
「ううん、怖くはなかったんだけど…」
「やー、むしろ軽く怖がったほうがモテ系かもw 黙ってると怖いwww」


よけいなお世話だー!!!(怒
好印象→やっぱコイツKY確定。
リアルの世界って怖いわーw


とにかくダイアログ・イン・ザ・ダーク、おすすめですよ。
ちょっとお値段が高くて、日によっては軽くディズニーくらい行けちゃいそうなんですけど、また違った楽しさがあり、意義深い経験ができると思います。


『ダイアログ・イン・ザ・ダーク(Dialogue in the Dark)』