いしよし小説「ルームナンバー1444」最終話

たくさんの方に訪れていただき、ありがとうございます。


「ルームナンバー1444」、最終話を更新します。


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「バイバイ」


旅行鞄を下げた彼女が、空港でほほ笑む。
あたしは何も答えられなかった。
ただ、涙がとめどなく流れた。


よっすぃ〜


旅行鞄を床に置いて、彼女があたしの首に腕をまわす。
華やかな香水の香りが胸の奥に入り込んできて、あたしをめちゃくちゃに傷つけた。


「大好き。忘れないよ」


0.5秒の最後のキス。
誰かに見られるかもなんて、もうどうでもよかった。
その細い腕をつかんで、帰さないと叫びたかった。


だけど彼女はグズなあたしの衝動よりもすばやく身をひるがえし、
胸元で小さく手を振った。


「バイバイ」


ゲートに消えてく彼女を、あたしは呆然と見送った。
一度だけ、たった一度だけ彼女は振り返り、とても切ない瞳をした。
ありがとう、その唇が小さく動いた。


また来ると、最後まで彼女は言わなかった。
だから怖くて、また来てと言えなかった。


どうやって空港からホテルに帰ったか覚えていない。


あたしは花を見たことがなかったんだと思う。
青い空の下、風景はいつも嘘みたいな気がしてた。
誰にも見つからないようにと祈りながら
古ぼけたエレベーターに乗ってるたった今さえ、
あたしはどこか疑っているんだ、この景色を。


ルームナンバー1444。
14階の最上階に通されていたゲスト。
こんなホテルでもいいところを見せようと、フロントは焦ったのかもしれない。
美しい人にせめてすばらしい眺望を、と。


そう、せめて、忘れられない思い出を。
あなたに、あたしの時間と心と体、すべて使って。


それでいい。それでよかった。
だけど、空っぽになった部屋の中で、やっぱり涙があふれた。
眩しすぎる真っ赤な花が、瞼の奥から消えなかった。


☆終☆
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ハッピーエンドじゃなくて、ごめんなさい。
でも、もしお時間あったら、一度、最初から通しで読んでみてもらえるとうれしいです。
私自身は、とても好きなお話でした。
でも、当時はアップできなかったんですね。


もしよろしければ、ご感想を教えていただけると嬉しいです。
では、皆さま、よい週末を(^^)