福島に行けと言われて

これから書くことは、福島にお住まいの方にとっては不愉快な内容だろうと思います。でも、私にとってはいろいろ考えさせられた出来事だったので、自らの情けなさも含め、率直に書いてみようと思います。個人のブログですので何卒ご容赦ください。


今日、お昼過ぎに、とあるクライアントから一本の電話がかかりました。


来週、福島県に出張してくれないかという依頼でした。


私は一瞬ドキッとして、でも平静を装い、「福島の、どこですか?」と尋ねました。


福島とひとくくりで言われても判断ができないと思ったからです。


先方は、わりと明るい口調でこう答えました。


「たぶん、いわきあたりだと思うんですけど、まだはっきりしないんですよねーこういう状況だから。ご心配でしょうけど、でも、人もいっぱい住んでらして、避難地域とかではないですから」


私はすこし考えて、こう答えました。


「場所や諸条件がはっきりしてから、検討してお返事をさせていただいてもよろしいですか? また、場所によっては通常のギャランティではお引き受けできませんが、よろしいですか? 私はフリーランスですので、万が一の事故などがあった場合でも、なんの補償も受けられません。ですから、きちんと状況がわかってから、納得してお引き受けしたいと思います」


こうした答えを想起していなかったのか、先方は少々慌てたようでした。
私は、「すぐさまお引き受けできずに申し訳ありません…」と謝りました。


「いえ、もっともだと思います。ちょっと、またいろいろはっきりさせてから、再度ご連絡しますね。もちろんその段階でお断りいただいてもかまいませんから」


そういって電話は切れました。
その電話をくれたのは中継ぎの立場の人だったので、私の考えを聞いて気づいたこともあったのか、少々申し訳なく思ったようでした。


電話を切って、私は考えました。
けっこう、イヤなやつだな私……。


パソコンを立ち上げ、いわき市について調べてみました。
沿岸部と内陸部ではずいぶん被害状況が違うらしい。
余震はけっこう続いているあたり。
福島原発からは40〜50km圏内、放射線量は…、水道水は…


結果的に私が導きだしたのは、市内中心部であればお断りする明確な理由はないということでした。
放射能値は当然、通常より高めですが、健康被害よりも風評被害のほうが心配な感じです。


だから、リスクとしては大きな余震での交通の遮断(電車が止まるとか)、
そして万が一のさらなる原発事故…といったところ。


つまり、予測できない突発的なことだけです。


どんな仕事先でも突発的な事故というのは起こりうるわけですから、
これはあまり心配し過ぎるのもなんだよね。
でもまったく怖くないかって言ったら嘘なのよねぇ…。


首をひねって、私はウーン…と考えました。
私って、いざとなるとけっこうビビリだな。
そこに暮らすことを余儀なくされてる人もいるのに、ほんと失礼だよね。


よし、行こう。
心の中で、密かにそう決めました。


行きましょう。行ったるワイ。
やや開き直り気味ではありましたが、私は頭を切り替え、行くからには手ぶらってわけにはいかないな、なにか持ってかないと…ってことを考え始めました。


ただ、クライアント側の姿勢は気になりました。


現地の方には大変失礼な話ですが、少なくとも都内にいるよりはハイリスクなところに、人を派遣するわけです。


社員ではないので、補償はできないでしょう。


そこを、どのように誠意をもって私を説得してくるか。どういう条件を提示してくるのか。


圧力をかけてきたり、おかしな交換条件を出してくるならやめようと思いました。


仕事をいただいておいてなんですが、私は足元を見られるのは好きではありません。


比較的、専門的な技量を必要とする仕事をしていますので、その技能と金銭の交換、私は仕事をそうとらえたいと思っているのです(単にえばりんぼで、頭を下げてまで仕事もらうのはイヤっていうのもありますw)。


つまり、どうしても雪ぐまちゃんでなければと先方が先方なりの誠意をもって依頼をしてきたならば。


あるいはそれなりの立場の方が、「私も一緒に行きますから。悪いようにはしませんから安心して」ということなら。


そうしたいわゆる“思いやり”があるなら、補償に不安があったとしても、「よし行きましょう」という気概くらいはもってると、私は自負しています。


だけど、なーんも考えずに都合よく、「あいつにやらせとけ」ってことなら行かないよ。
そう思ったのです。




さあ、どうなるかな。


なにげにドキドキしながら私は電話を待っていました。


それまでやってた仕事は手につかなくて、なんとなく落ち着かない気分でした。


電話はあんがいはやくかかってきました。2時間待たなかったと思います。


「すみません、先ほどの話ですが、キャンセルになりました」


ガクッ。
私はずっこけました。そ、そうきたかー…。


先方は言葉を濁していましたが、どうやら私の言葉を聞いて「じゃあ、まあ、やめとくか…」となったようでした。


「どなたか他の方が行かれるのですか?」
「いや、それが結局、その案件自体がなくなりそうかなという感じで…。わざわざ行かなくてもいいかというような流れに…」


そこまでの仕事でもなかったってこと…?


電話を切って私は、ホッとしたような、ムッとしたような、申し訳なかったような、情けなかったような、おかしな気分でした。


だって、ほんとのこというと、こんなこと言いたくなかったのです。


恋愛でだって、「ねぇ、私のことちゃんと考えてくれてる?」なんて、わざわざ言いたくないでしょう?


で、むこうが「あっ、言われてみればこれはちょっとダメだったかもね。イヤだよね、ごめんね、やめとくね」って慌ててるのって、なんかイヤじゃない。


「大事にしてるよ」「いなきゃ困るよ」、いつもそう言われて、わりと無理をさせられてるクライアントです。


やっぱ全然、口だけですね、って、また気づかされてしまうし。



まあでも、世の中はそんなものでしょう。
自分のことを本気で親身に考えてくれるのは、ホントのところ、自分自身と、家族と、自分を特別に愛してくれる人だけなのです。


だからそれはさておき、自分の中の恐怖、器の小ささみたいなことに気づいたのが、やっぱ一番イヤだったのかもね。


あたしってビビリー、みたいなorz




こんな私も、4月の末には被災地支援を兼ねて、現地のどこかに小旅行に行こうと計画を進めています。
もちろんお邪魔にならないように、わずかばかりですが物資も積んで。


だけど、こんなふうに矛盾してることもあるね。
いざとなって一瞬怖かった自分を感じて、すこし(いやかなり)憂鬱な金曜の夜です。